スムーズな行動は上班・班長の腕次第だ
●隊・班をうまく行動させる引率術
(必要な情報を簡潔に伝え、常に連絡、報告を)
集団で行動をする場合、必ずリーダーが必要となる。そのリーダーがよいか悪いかで、メンバーがやる気になったりシラケたりするし、ときには班の運命まで決定してしまうこともある。これは歴史上でも多くの実例が見られるし、今の家庭や学校、職場などの日常生活でも経験することだ。
特にハードな野外では、生命にかかわる状況に遭遇する場合もあるのだから、こでは隊や班のおけるリーダーシップと隊・班行動の基本的なテクニックを学んでほしい。たとえ単独行動だとしても役に立つことは多い。また、スカウト活動でのリーダーシップを身につけていると、日常生活にも大いに役立つことが多いのだ。
さて、いよいよ班長会議でハイキングやキャンプの計画が承認され、準備が整ってスタンバイしたら、上班や班長が直面するのは班をいかにしてスムーズに引率するかということだ。
①集合と出発
②移動と解散と休憩
●成功するリーダーシップのとり方
(班員の気持ちを動かし、信頼をえるための積極的な態度が大切)
◆リーダーシップの第1ステップ
班長「もっとマキを集めておこうぜ」
B 君「もういいんじゃないか、ご飯は炊けたんだし、面倒くさいヨ」
といった場合は、班長が働きかけたリーダーシップは失敗 だ。
◆リーダーシップの第2 ステップ
班長「モタモタしてないで拾ってこい! 骨おしみするんじゃないぞ!」
と言われて
B 君「しょうがないな・・・」
としぶしぶでもマキ拾いに出かけたとすれば、班長のリーダーシップは成功したのだ。
◆リーダーシップの第3 ステップ
班長「山の夜はグッと冷えこむぞ。マキは多めに集めておいたほうがいいよ」
B 君「うん、そうだね、寒いときはたき火が一番だもんね。集めてくるよ」
とB 君が腰をあげれば、班長は効果的なリーダーシップを発揮したことになる。
もっとも第2ステップのリーダーシップでも、日が落ちてシンシンと寒くなってきてから、B君が「やっぱり班長の言ったとおりにマキを集めておいてよかったな!」と思えば班長の強引さも信頼に変わるだろう。
つまり、リーダー(班長)とは「集団行動の中でほかのメンバーたちよりも、多くの成功的リーダーシップを果たす人」ということであり、リーダーシップとは「集団のメンバーたちが望む、共通目標を達成するためにメンバーたちの気持ちを動かし、何かの変化を起こさせる積極的な働きかけの方法」なのである。簡単に言えば「みんなをやる気にさせる方法」だ。なので人によって上手だったり下手だったりするわけだ。
だから、いくら班長の地位にあっても、失敗ばかりのリーダーシップでは班長失格だ。キミのまわりを見回してみたまえ、思い当たる人物がいるのでは。
◆班長3つのスタイル
では、いつも「ああしろ!、こうしろ!」と命令ばかりする班長は悪い・・・とか、メンバーの意見をいちいち聞いてあげ、みんなを自由気ままにさせておく班長は良い・・・といえるかというと、そうとばかりはいえない。
グループダイナミックスの研究では、リーダーシップを次の3つの型に分類している。
専制型 (オレニツイテコイ型〉
民主型 (ミンナデ相談型〉
放任型 (スキニヤッテミナ型)
ただ、このうちどれが良くてどれが悪いとは簡単にはいえないのだある。
つまり、班が「今」直面している状況に、どの型のリーダーシップが合うのか、明確に判断して使い分ける必要があるということなのだ。それぞれの型にプラスとマイナスの面があることを知っておこう。
下に3つの型を表にしておいたから、いろいろな場面を想像しながら当てはめてみるといい。
●班長の任務と心得
(良い班か、悪い班かは班長で判断されるのだ)
このホームページを読んでいるキミが、本物のボーイスカウトの班長になりたい、と思うならば、まずリーダーとしての基本的な任務や心得を身につけなければならない。
①リーダーの任務
ボーイスカウトの他にも、仲良しグループのハイキング、学校の山岳部、野外教室の集団登山、子供会のキャンプ、あるいは学術探検隊など、野外に出かけていって活動するさまざまなグループがあり、それぞれ違った特徴がある。しかし共通していえることもある。その1つがリーダー(班長)の任務だ。これはまとめていえば、
「野外活動の全般を通して、あらかじめ予定された集団の目的達成のために、メンバーの協力をはかり、安全にしかも適切な方法で楽しく指導する」
ということになるのだが、これをもっと具体的に紹介しよう。
②リーダーの心得
それでは班長の任務を果たすためには、どんな心得が具体的に必要なのか目標をあげてみよう。
A. 班員の性格はどうか、知識や経験や熱意はどの程度なのかよく知ること。
B. 班の中での班員としての責任、つまりメンバーシップを理解させること。
たとえば、
C. タフな精神力と体力を常に保持していること。
D. 民主的なルールを身につけながら、不測の事態には思い切った決断を下せる心構えを身につけているこ
と。
E. 班員の心理状態や体力を考え、適切な判断を出せるよう感受性を養うこと。
F. 多方面への関心と、常に向上しようとする意欲を持ち続けること。
G. 態度が明るくユーモアがあり、いつも心に余裕があり冷静なこと。
H. 班員を指導・指示するための方法や、判断・対応するための技能や知識を持っており、それを班員に示
す表現力が豊かなこと。
これは、まさに、山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」なのである。
よいリーダーがいるところにはよいメンバーが育つし、よいリーダーは、またよいメンバーでもなければならないのだ。
●組織作りとチームワーク
(どんな状況下でも情報や意見の交換をスムーズに行うための)
キャンプやハイキングしようとするとき、班ではそのキャンプやハイキングに対応できる役割分担、つまり班員の任務が必要となる。それにより、リーダーとメンバー、それぞれの仕事の分担の範囲、あるいはお互いの意見や情報の交換など、一連の動きがだれにもわかりやすくスムーズにいくからだ。
①よい班づくりの条件
㋐班員全員が一人一役以上、果たすベき仕事を分担していること。
なんにも仕事をしない班員は、その分だけ他の人に負担をかけているということになるからだ。
㋑班長と班員、班員同士、分担した役割間の意見や提案など、情報の流れが早く正確に伝わること。
「オレそんなこと聞いていなかったヨ」
「早く言ってくれればよかったのに」
なんてことで組織の動きが停滞したり誤解が生じてトラブルが起きるものだ。
㋒ボーイ隊の班の標準人数は8人である、これは、話し合い、作業能率、役割分担、班員の自主性を生
かす、などの面でたいへん効果的なのだ。青年の家や少年自然の家の1部屋が8 人か同人収容になって
いるのもグループ活動を考えているからだ。
㋓班には必ず班長と次長がいること。そして、各自がそれぞれ役割を分担され、その責任者となるこ
と。
㋔金銭の出し入れを明確にすること。班活動する場合には、多かれ少なかれお金の収入と支出がある。
その扱いが不明朗だったり、あいまいだったりするのもトラブルの大きな原因になる。
㋕必要に応じてアイデアや情報の提供、技術の指導など、知恵を貸してくれたり相談に乗ってくれる指
導者がいること。
班長がうぬぼれていたり、未熟な班員の集まり、単なる仲良し班などは、とかくチマチマとまと
まって、ひとりよがりで閉鎖的になりやすい。こんな班は発展もしないしマンネリになり、班員の向
上もない。
そうならないために班長会議を活用しよう。それは単なる調整・決定機関ではない。重要な問題の
解決や、GBの養成、班員の実力向上などの任務も持っている。班の発展には大いに役立つところ
だ。
その班長会議のとりまとめ役、つまり議長が上班(上級班長)なのである。だからと言って、上班
がこれらを全部受け持つわけではない。上班の大きな役目は、これらを達成するために、必要に応じ
て隊の指導者との橋渡しをすることである。
②チームワークをよくするには
さて、いくら班の形が整っても、それを動かす人間のチームワークができていなければ、班はうまく動いてくれない。そこで、チームワークをよくするポイントをあげてみよう。
㋐班員全員が到達・達成しなければならない目標がハツキリしていて、かつそれに向けて自分のやる役
割がよくわかっていること。
㋑分担した役割が他の役割とどう関連し、それが全体としてどうまとまっているかがわかり、その連絡
が相互にうまくいっていること。
㋒いくら班長と班員、先輩と後輩といえども公平な発言の機会があること。
㋓決められたルールやマナーをみんなが喜んで守る気風・気概があること。
㋔全員がその「班」としてのプライドを持ち、積極的に行動する意欲があり、楽しい自由な雰囲気や、
班独自のカラーを持っていること。
要するにいいチームというのは「リーダーの任務につけばリーダーができ、メンバーになればリーダーに協力できる、いいメンバーのいる集団」なのだ。
◉班の役割分担の例
※仕事は公平に
炊事、水くみ、マキ割りなどは当番でやる。食事係がいつもやるということではない。
それぞれ分担された係は責任者ということだ。
●運用と管理の方法
(リーダーシップを発揮し、組織や行動計画を思い通りに実現させる)
班のハイキングキャンプの行動計画が、いくら綿密にできたとしても、それは単に「形」 ができたというだけだ。この形にエネルギーを与えて実際に「 動かす」 運転方法が運用と管理だ。
だからやり方しだいで、ヘタでぎくしゃくした運転にもなれば、なめらかで上手な運転にもなるのだ。
また『計画』 というのは「こうなるだろう」「こうすればいいな」といった予想と希望のうえに組み立てられた、あくまでも『予定』 だ。野外では予定どおりにことが運ぶということはほとんどない。それどころか状況が変わることのほうが普通なのだ。
天候にしても班員の状態にしても、どんどん変わってくるし、現地の状況だって見込み違いがある。
「だったら、どうせアテにならないんなら、計画も組織もなくたって、その場その場で適当にやればいいじゃないか」と考えるようだったら、「浅はか」という意外に言葉はない。
計画があるからこそ直面した現実との違いの程度を知って、その場に最も合った対応ができるのだ。その対応の仕方こそが運用・管理の上手・下手であり、成功、不成功の分かれ道となるのだ。
◉上手な運用で組織を動かす法
たとえ登山隊の隊長でも大キャンプの野営長でも、あるいは小グループの班長であっても、組織を動かす運用の基本は同じだ。『成功する』 リーダーシップをどう具体的に発揮すればいいかということなのだ。運用上手のポイントをあげてみよう。
㋐言葉はハッキリ
班員に指示するにしても口ごもっていたのでは迫力がない指導者、相手の心を動かせない。まして野外では声が散ってしまうから、相手の耳に確実に、しかもわかりやすく、気持ちのいい音声で入ったほうがいい。
㋑態度はテキパキ
班長がノソノソしていたんではしまらない。明るい態度は班員を勇気づけ、気持ちをポジティブにさせる。だから、班長は進んで行動に示すことだ。しかし粗暴なのはダメ。スマートにやろう。
㋒頭はスッキリ
すぐカッ!となって血が頭に上るようでは適切な状況判断はできない。いつも頭をクールにしておくこと。特に急ぐときや問題がこじれた場合にこそ大切なことだ。合理的な判断や公平な処理の方法を思いつけば、班員から信頼を受けるだろう。
㋓心はユッタリ
心が散漫でセカセカしていたのでは、つまらないことで班員に小言を言ったり、トゲのある言葉が出てしまう。それでは心からメンバーが動くということにはならない。
またしても山本五十六の言葉だが
「苦しいこともあるだろう。云い度いこともあるだろう。不満なこともあるだろう。腹の立つことも
あるだろう。泣き度いこともあるだろう。これらをじつとこらえてゆくのが男の修行である。」
・・・と。え、女性が班長の場合? 「男」を「女」に替えておくれ!!
心を広く豊かにするということは、相手の立場に立って考えられることであり、細かいことにも気のつく感受性を持つことだ。
㋔やればいいってもんじゃない
行動を起こすときには、「ただなんとなくはやるな!」ということ。今、自分は何のためにそれをやるのか、いつも目的を考えてやろうということなのだ。「なぜ? 」といった疑問を持たなければ進歩がない。それで「もっといい方法はないか」と考えて行動することだ。
㋕先を読め
「うわっ、雨が降ってきたぞ! 大急ぎで濡れて困るものをしまえっ!」なんて注意するような班長は三流班長だ。そんなことは言わなくたってわかるのだ。それよりも「この雲行きじゃあ、あと何分ぐらいで夕立がくるかもしれないぞ、今のうちに準備をしておこう」というのが本物の班長だ。
情報アンテナの感度を上げて、班員より二手も三手も先んじて行動するのが班長の務めなのだ。先見性があれば適切な指示が出せて、班員も行動しやすい。一事が万事だ。
㋖一歩下がって班を観察する
㋗予定の変更にこだわるな
細かい計画を立てれば立てるほど、状況の変化への対応、すなわち予定の変更はしにくくなるものだ。臨機応変に柔軟に対処しよう。ただし大した理由もないのに変更するのはよくない。
㋘準備と決断は早めに
先手必勝というくらいだ。予定に追われるより早めに準備しておけば、行動が楽になる。どっちにしようか迷うときも、相談が長引くと問題がこじれやすい。
「転ばぬ先のつえ」というではないか。
※この文章は「野外冒険術」伊藤昭彦 著 主婦と生活社P.78〜87を引用し、ボーイスカウト向けに加除修正したものです。
プ
ラ
ス
面
マ
イ
ナ
ス
面
有
効
な
場
面
効
果
専制型 民主型 放任型