スカウティングと進歩
今、県内の団を見て見ると、進歩課程に積極的に取り組んでいる団とそうでない団が両極化しています。偏った見方をすれば、「楽しく魅力あるプログラムをスカウトに提供するために進歩課程が疎かになっている」という場合や、「進歩することは大切なことだから、まずは楽しい活動よりも、進歩課目に取り組んで進歩させる」場合ということになるでしょう。
これらは、どちらも正解ではありません。
ボーイスカウトにおける進歩の在り方は、ひとことで言えば「やりたいことを、楽しんでやっていたら、いつのまにか進歩していた」なのです。
県連で発行している「進歩制度〜その理解と活用のために」の序文を見て見ると
「(前略)この本の中にこんな一文があります、B-Pの言葉をもじった、いや発展させたものですが‥‥
「自分のカヌーは、自分で作って漕げ!!」 (そして、作ったカヌーが壊れたら、自分で泳ごー。泳
ぎながら、どーしたら助かるのか、良く考えよう!)
だそうです。今の社会では、「なんて無責任なんだ!」なんて声が聞こえてきそうですが(笑)。
ですが、これが、本当の「進歩制度」なんですよね。
‥‥壊れないカヌーを作るにはどうしたらいいだろう、そもそもカヌーは壊れるし、ひっくり返るもんだよな……。ってことは、泳ぎができなくちゃまずいな。どんな状況で泳ぐのかな?……。静水なワケはないから、川で流されるんだろうな。クロールよりも平泳ぎかなぁ。あ、着の身着のままじゃ耐えられないから、ライフジャケットは当然着けなくちゃ、それはどこにあるんだろ?どうすれば借りられるの? う〜ん、上手な流され方ってあるのかな? そうだ、岸に上がったとき、きっと体が冷えてるだろうから、たき火をしなくちゃ。マッチの防水加工もしなくちゃ。都合良く流木があればいいけれど、きっと濡れているから、ライターの方がいいかな。火が着きやすくするには表面削って「ささくれ」をつくって‥‥、ってことはナイフも必要だ。濡れないようにビニール袋に入れて、ひっくり返ったときに失くさないところは‥‥
と、このようにどんどん取り組むべき課題が膨らんできます。これって楽しいでしょ? みんなで額を寄せ合ってワイワイガヤガヤとこういうことを考えること、それをみんなで話し合って、その対策を考え、それをあーだこーだと試行錯誤しながらみんなで楽しんで準備すること、そしてそれを実行し、失敗し、反省評価して、「今度こそ!」につながる‥‥それが「進歩」の本当の姿なんじゃないでしょうか。初めに進歩課目ありきじゃないんですよね。楽しい活動するためにやらなきゃならないことがあって、それをやったら、進歩してた! 進歩課目に繋がった‥‥です。おぉ、プログラムと進歩が直結しちゃいました。」
とあります。まさに、これがスカウティングなんですね。
だからこそ、スカウトたちが取り組む活動の「テーマ」が大切になってくるのです。そもそも私たち成人だって「興味が無いこと」に対して行動を起こすことは、億劫ですよね。スカウトたちだって同じなんです。だからこそ、「活動」そのものにスカウトが興味を持つことができるのか、いや、その活動のテーマがスカウトのニーズに基づいているのか、スカウトの興味を導き出す想定が提示できるのか・・・が大切なのです。
進歩制度で最も大切なことは、「スカウト達が首を長くして待っているプログラム(活動)」があるかどうかです。それは班集会かもしれませんし、隊集会かもしれません。ジャンボリーかもしれません。
それをどのような順序で組み立てていくか(年間プログラム)、どのような活動を設けていくか(進歩課目の細目)、そしてどのような仕掛け(提案をして、好奇心から興味に移らせて、どんなことに取り組んで、どのような成果を持って、対班競点として隊活動に臨めばいいのかを考えさせるか=履修計画)をして、それをどのように班長会議に投げかけて、班長を誘導し、進歩課目の履修に繋げていくか・・・を考えるのが指導者の大きな役目なのです。そして、それらをつぶさに観察して、タイムリーに進歩課目の認定をしていくことで、活動が進歩制度にも結びついていくのです。
このように、スカウティングにおける進歩とは「スカウトが自ら考えて、自分の道を切り開いていける能力」を培うことです。それによりスカウトとしての「自覚」「誇り」「使命感」が生まれ、社会性(社会に対する責務、責任感、使命感)が育っていき、公共心を持ったより良き社会人が送り出されいくのです。そのきっかけとして大切なのが「おもしろがる力」なんです。(「リーダーズクラブ」の「隊長の手紙」参照)
それらの力を「実践=体験」によって自ら獲得し成長へと繋げていくのです。そのような場や機会を提供するのがスカウティングなのです。
佐野常羽氏の「実践躬行・精究教理・道心堅固」、「Learning by Doing (行うことによって学ぶ)」とはまさにこのことでしょう。